珈琲雑学

コーヒーの歴史

60年代イギリス製キッチンタイマー

15世紀、回教徒達の秘薬として飲用されたのが始まりとされるコーヒーは、16世紀にヨーロッパに持ち込まれ庶民に愛飲され世界に広がった長い歴史がある。
17世紀に入りイスラム商人によって当時のヨーロッパの貿易港であったベネチアに紹介されたトルコスタイルのコーヒーはブームを起こしオランダ、フランス、イギリスへと広まっていった。
18世紀後半、フランス人ドルマルテイがネル付ドリップポットを発明しコーヒーをろ過する今日のスタイルが確立された。
このようにしてコーヒーはオランダ、スペイン、ポルトガル人の手によって植民地で栽培され世界に広がっていった。
わが国におけるコーヒーの普及は戦前のカフェに始まり、戦後の喫茶店の隆盛、そして今日のコーヒーショップへと受け継がれて行く。それは欧米との接点であり、わが国の食文化の新しい流れでもあった。
コーヒーの香りの中で若者達が政治を論じ文学を語り恋人と未来を夢見た。

コーヒーの魅力

70年代西ドイツ製コーヒーミル

長い歴史を経て世界中の人々に愛飲され飲み物のトップの地位を勝ち得たコーヒーの魅力、それは何であろう。コーヒーに香りがなかったら今日の姿はあったであろうか。
その豊かな香りは人の心を和らげ、ゆとりとやすらぎを与えてくれる。
また、中枢神経系統に穏やかな興奮作用をもたらすカフェインが疲労回復や気分転換などに効果を発揮し、コーヒーはストレス社会に生きる現代人には欠かすことの出来ない飲料として定着している。
さらに昔は「体に良くない」などと悪者扱いされたコーヒーだが、近年は医学的にも様々な効能が認められている。がんや生活習慣病の予防、更にはダイエット効果までもが証明されるようになり、ついには「コーヒーの消費量が多い国ほど長寿国」のデーターも公表されるに至った。
メンタル面も含め我々人類の健康に大きく貢献しているコーヒー、その芳しい香りに秘めたコーヒーの魅力はこれからも世界中の人々を魅了して止まないだろう。

コーヒーの香味

60年代フランス製ホーローポット

コーヒー豆は品種、産地、精製法などによって香味が異なり、わが国に輸入されてからの焙煎、粉砕、抽出法によりその味や特徴が違ってくる。
コーヒーの香味を大別すると苦味と酸味に別けられ、一般に浅煎りの酸味から深煎りの苦味へとローストの度合いで変化して行く。
したがって酸味を強調させたいアフリカ産の豆は浅煎りに、苦味を強調させたいインドネシア産の豆は深煎りにと、焙煎にはロースト度合いをコントロールする高い技術が求められる。
焙煎と同じくコーヒーの香味に係る重要な要素として挙げられるのがブレンド(配合)である。個性が魅力のストレートコーヒーに対して調和を重視したブレンドコーヒーは、それぞれのコーヒーの持ち味を生かしつつも、互いを補い合い、引き立て合うための絶妙で繊細な調整を必要とする。それゆえイメージ通りのブレンドが完成した時の喜びは格別なものがある。
わが国で最も一般的なコーヒーの抽出法は紙フィルターによるドリップ式が主流であるが、おいしいコーヒーの抽出には良質なフィルターを選ぶことも忘れてはならない。

コーヒーの化学

80年代チェコスロバキア製コーヒーミル

コーヒーの香りはコーヒー生豆に含まれるタンパク質、糖、トリゴレリン、クロロゲン酸などがロースト行程中に香気物質に変化して発生する。
香りは分子として存在しロースト豆の脂質に含まれているが、深煎りになると細胞が壊れ脂質(コーヒーオイル)がしみ出てくる。
空気中にただよった分子(気体)は鼻の粘膜に吸着し香りとして感じるわけだが、コーヒーに含まれる香りの成分約700種は大部分が焙煎によって発生するもので、その30%がコーヒー豆にのみ含まれる独特の成分である。
一般に香りの分子はロースト度を上げるに従い増加するが、タンザニア産のキリマンジャロなどは香気量が多くローストで香りを出さなくてもよいので、浅煎りでこくのある風味を楽しむことができる。
またローストが深くなるにしたがって香り、苦味が強くなり酸味が減るが、同時にその豆の特徴も薄れてしまうこともあり難しいところでもある。

コーヒーの需要

50年代イギリス製レタースケール

米国農務省の調べによると世界のコーヒー消費量はこの30年間で約7倍に増加している。
その最大の要因は中国やインドなどの新興国にあり、経済発展と共に食生活の欧米化が進み日常的にコーヒーを飲む習慣が生れ、桁違いの人口から爆発的な消費増となった。
さらに世界第1位のコーヒー生産国ブラジルに於いても同様の理由から、国内で消費する増加は凄まじく、今ではアメリカに次ぐ世界第2位のコーヒー消費国となった。
また欧州ではドイツが俄然トップで世界第3位の消費国で有るが、紅茶大国イギリスでも近年は若者を中心にコーヒーが人気の飲み物となり紅茶を逆転した。
世界第4位の消費国である日本に於いても緑茶の消費量は減少傾向にあるが、コーヒーは長期的に増加を続け2014年の全国県庁所在地別家計消費支出データから甲府市の例を見ると、一世帯(二人以上)当りの年間消費額を示す順位は25位で、コーヒーが6018円で有るのに対して緑茶は3187円と約半分であった。
この様にコーヒーの需要は世界中で増加の傾向を示し、アジアを例に見てもベトナム、フィリピン、インドネシアなどへは海外企業からの投資も盛んで、今後の経済成長の期待度も大きく所得の増加と共にコーヒー消費も倍増が見込まれる。

コーヒーの供給

80年代ハンガリー製ローラ・アシュレイ

今や世界中で飲まれるようになったコーヒーの需要は膨らむ一方だが、コーヒーはコーヒーベルトと呼ばれる赤道を挟んだ北緯25度と南緯25度の間が栽培域で、約70ヶ国による栽培(生産)に頼るのみである。
一昔前には供給過剰による生産調整が行われた時代もあったが、近年は温暖化などによる異常気象で作柄に影響が出ることもあり、需要の増加を賄い切れず在庫分でしのぐ年もある。
米国農務省の最新情報によると2015/16年の世界総生産は1.53億袋(60kg/袋)に対し、同年の世界総消費は1.49億袋と切迫し消費率は97%に達している。
また、過去9年間の年平均増加ペースは280万袋と算出され、仮に生産量が今のレベルで推移したと仮定すると僅か1年半で需要が供給を上まわり、不足分を在庫から充当して消費して行くと11年で在庫が底を突き、完全に供給不足となってしまう。
この為、アジアの各国でもコーヒー栽培が盛んになり、特にベトナムがコロンビアを抜いて世界第2位のコーヒー生産国になっている。
ちなみに我が国(沖縄)でもコーヒーの栽培が始まっているが、台風銀座の地で風に弱いコーヒーの木が近年のスーパー台風に耐え得るか、期待より不安の方が大きい。

コーヒーの流行

60年代イギリス製デスクカレンダー

今や年間45万トンを消費する世界第4位の大消費国となった。日本人のコーヒー好きには実のところ缶コーヒーが大きく関与している。1969年に誕生した缶コーヒーは日本ならではの好条件が大ヒットをもたらした。治安の良い日本では自動販売機による屋外での24時間販売が可能であったからである。
特に飲料の自動販売機は瞬く間に日本中の隅々まで普及し、現在250万台が設置されている。
中でも人気の定番商品は、やはりコーヒーで各メーカーは競って新商品を開発して、熾烈なコーヒー戦争が今日も続いている。
日本のみならず世界の潮流ともいえるコーヒーの流行を振り返って見よう。質より量の時代だった1970年代に大流行したファミリーレストランの「アメリカンコーヒー」が第1次コーヒーブーム。
1990年代にアメリカ西海岸から世界中に広まったスタバに代表される「シアトル系コーヒー」が第2次ブーム。そして2010年代から良く耳にする産地から農園まで厳格な品質管理で生産される「スペシャルティコーヒー」が第3次ブームでサードウェーブと呼ばれている。
大型機械による大量ドリップから全自動マシンのエスプレッソへ、そして一杯ずつドリップと時代と共に変化してきたコーヒーの流行であるが、社会や個々の価値観が多様化している現代に於いて消費者にもコーヒーの本質を見極める確かなセンスが求められている。

コーヒーの本質

30年代西ドイツ製コーヒーミル

飲食店やホテルなどのサービス業界を始め、職場でも家庭でも私たちの日々の暮らしに欠かす事の出来ないコーヒーであるが、その存在意義について考えてみたい。
今となっては古い話だが、1998年に長野県で開催された冬季オリンピックでのエピソードである。世界中からの参加選手はもちろん多くの関係者が滞在する選手村で、驚愕の声を浴びたのはコーヒーの価格であった。7$(約800円)当時の日本では喫茶店350円、ホテル700円が相場であったが、欧米人にとっては信じ難い価格で自国の10倍近いコーヒーに閉口したのは当然である。なぜこんな事態に至ったか、それは業界特有のルールと流通システムに問題があった。
詳細は別の機会とするが、要は外国人にとって日常のお茶であるコーヒーの価格が、サービスを提供する側の都合で決められていた事にあった。もちろん当地の物価による所も有るがコーヒーだけが特出して高かったので、「なぜ高い日本のコーヒー」と海外メディアに大きく取り上げられ話題になった。
あれから20年近くが経過し、サラリーマンの昼食代がワンコインになっても日本のコーヒーは相変わらず高い。唯一、頑張っているのはコンビニのドリップコーヒーで、専用のマシンが挽き立てを抽出し、味もポピュラーで多くの顧客に利用される人気商品となっている。
実はこの身近にあるコーヒーに本質があり、毎日のコーヒーで有り続けることに存在意義がある。
その為には美味しい事は当然であると同時に、親しみやすい値段である事も重要である。